弁理士が教えるデファクト・スタンダードとは?事例をもとにわかりやすく解説

産業の発展に欠かせない「標準化」。国際基準に則って広く展開していくものもあれば、意図を持って日本国内独自の基準にこだわり、その製法や形状を守り抜くことでブランド価値を高めているものもあります。

そうした「デファクト・スタンダード」の波の中でも、今後よりいっそう重要な指標となっていくものの一つが「デファクト・スタンダード」です。

当サイト監修者:日本知財標準事務所 所長 弁理士 齋藤 拓也 1990年株式会社CSK(現SCSK株式会社)に入社、金融・産業・科学技術計算システム開発に従事、2003年正林国際特許商標事務所に入所。17年間で250社以上のスタートアップ・中小企業の知財活用によるバリューアップ支援を経験。現在は、大企業の新規事業開発サポートや海外企業とのクロスボーダー 案件を含む特許ライセンス・売買等特許活用業務等に携わる。

デファクト・スタンダードとは?

デファクト・スタンダード」とは、ある企業内で使われている標準規格が、実質上の(デファクト)業界標準になったものを指します。「ISO」や「JIS」といった標準化機関が定めた規格ではなく、市場において広く採用されたことにより、結果的に業界の標準規格として浸透している例です。

反対に、「ISO」「JIS」などの標準化機関などが定めた標準規格を「デジュール・スタンダード」と呼びます。

「デジュール・スタンダード」は基準を普及・浸透させるために作成されますが、「デファクト・スタンダード」は、すでに自分たちの市場でルールが確立されているため、国際的に普及させる必要がないのです。

わかりやすい例でいえば、マイクロソフトやアップルなどが作ったものが「デファクト・スタンダード」に該当します。

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デファクト・スタンダードの在り方

「デファクト・スタンダード」は、基準となった企業が持つ特許なども含めた規格です。だからといって、すでに業界標準に達している段階で「特許を持つ技術を他社に使わせない」というアクションを起こすと、独占禁止法に問われる可能性があります。

そこで、企業は「標準」という公的な器をつくり、特許をはじめとする知財なども盛り込むことで、社内外を問わず市場で広く納得されるルールづくりをしているのです。

その際、他社にも広く開放する特許(標準必須特許)と、自分たちだけが独占する特許をうまく使い分けています。自分たちの技術や製品に絶対的な自信を持っている以上、本来であれば「標準化」をせず独占したいというのが本音でしょう。

だからこそ、独占禁止法に対し、自社の規格を国際標準化されることでリスクヘッジをしているのです。実際、デファクト・スタンダードとして普及したものについて、後からISO化する動きもあるのです。

たとえば、トヨタは燃料電池関係の特許をオープンにしています。これは、自社の総合的な技術力が高いことを自負しており、技術の一部を公開することで参入者(トヨタ陣営で事業を行う仲間)を増やして、マーケットを広げていける、さらにトヨタへの信頼や評価を高めていけるという判断からでしょう。

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VHSとベータのビデオ戦争

「デファクト・スタンダード」における事例の中でも、有名なものといえば「VHS」と「ベータ・マックス」の関係でしょう。

現代では、テレビ番組を録画するときに使用するのはもっぱらブルーレイ・ディスクが主流となっています。しかし、1990年代まで、録画媒体といえばVHSが一般的でした。では、VHSがもともと唯一無二の存在であったかといえば、決してそうではないのです。

1975年、ソニーは家庭用の録画媒体としてベータの販売を開始しました。翌年の1976年、今度はビクターがVHS方式のビデオカセッターを販売したのです。

VHSには、 ベータ・マックスの二倍の録画時間を誇るうえに軽量であるという強みがありました。一方で、ベータ・マックスには、VHSよりも画質が鮮明であり、コンパクトな文庫サイズであるという強みを持っていました。

実は当時、VHSとベータ・マックス以外にも複数の家庭用録画媒体を各メーカーが販売していました。U規格、Vコード、オートビジョン方式、VX方式などがそれらに該当します。さまざまな規格が乱立する中で、各社が自社製品を「家庭用の本命」としてPRしていたのです。

しかし、最終的には松下電気、東芝、三洋電機、NEC、パイオニアなどそうそうたるメーカーが「VHS」と「ベータ・マックス」の二陣に分かれることで、ビデオ戦争は加熱していきました。

販売開始当初、VHSは画質面でベータ・マックスに劣るとされていましたが、ビクターは総動員させ、画質の改善や新機能の搭載などに尽力します。そして、1978年度には、VHSの生産台数がベータ・マックスをとうとう超えたのです。

1980年代にはメディアがVHSの勝利を謳うようになり、ベータ・マックス陣営についていた東芝や三洋電機もベータ・マックスの新規開発を取りやめ、VHSへと完全に鞍替えしていくこととなります。

そして、ベータ・マックスを主導していたソニー自身も、1988年にVHSの併売を開始。その後、2002年いっぱいでベータ・マックスのデッキの生産を終了し、事実上の完全撤退となりました。

結果として、ベータ・マックスはビデオ戦争に敗れ、VHSが実質的な業界標準として浸透することになります。

VHSの勝因

熾烈なビデオ戦争の末に勝利をおさめたビクターのVHS。その裏では、さまざまな企業努力が続けられていました。

しかし、品質面ではソニーが主導するベータ・マックスのほうが優れているという声が、販売開始当初からあがっていたことも事実です。ベータ・マックスには、「VHSよりも画質が良い」「VHSよりもコンパクトサイズ」という利点がありました。

実際に、この二つのポイントに絞ると、「映像をより鮮明な画質で再生したい」「限られた収納空間でスマートな生活をしたい」と考える人の目には、ベータ・マックスのほうが魅力的に映ると考えられます。

しかし、高品質を謳うあまりに、ベータ・マックスは敷居の高さを消費者に感じさせていました。また、ソニーは当初、ベータ・マックスの権利を独占しようとしていたのです。

一方で、VHSを主導するビクターは、試作機を他社に貸し出し、早い段階で自社のVHSの技術を他社に広く公開していました。

そうすることで、シャープや三菱電機などの後続企業が速送りなどの新機能を搭載させるなど、ビクター以外の企業がVHSを改良していくことができたのです。

品質もさることながら、参入企業としてどちらに旨味があるかといえば、一目瞭然といえるでしょう。「デファクト・スタンダード」は、単なる技術競争だけにとどまらず、こうした戦略や業界内部での動きによって大きく左右されるのです。

情報技術における標準化

「デファクト・スタンダード」の背景として注目しておきたいのが、情報技術分野です。

IT業界は日進月歩であり、年月をかけて「標準化」の手続きをしている間に技術がどんどん進化していきます。端的にいって、手続きに時間をかけることはIT企業にとって大きなロスとなってしまうのです。

だからといって、国際的なルールがなければ業界の発展に遅れが生じてしまいます。そこで、複数の事業者が集まって任意でフォーラムを開催し、任意の標準をつくるのです。

たとえば、DVDやブルートゥースなどには、さまざまな技術が混在しています。製造工程の中で特許を一つだけ持っていたとしても、それだけで製品をつくることはできません。

特許の世界では、「普通の特許」と「標準必須特許」が存在します。製品をつくるときに絶対に欠かせないのが「標準必須特許」です。

フォーラムでは、こうした「標準必須特許」をオープンにし、互いのライセンスを無償または安価で共有することにより、新たなルールを設定していきます。

一方で、Wi-Fiの周波数などの根幹的なルールや、基礎技術は「ISO」において国際標準となっています。こうした基本的なルールについては、世界共通にしたほうがより市場が豊かになるからです。

このように、「ISO」による国際標準と、これとは別に任意に作られる「フォーラム」によるフォーラム標準などをうまく活用しながら、さまざまなルールを半年ほどでスピーディーに決めることができます。

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まとめ

「スマートフォンといえばアップルのiPhone」「文書作成といえばマイクロソフトのOfficeツール」というように、ビジネスや家庭内で当たり前のように採用されているさまざまな製品。

これらは偶然のブームではなく、企業間競争やそれに伴う巧妙な企業戦略により、必然的に「デファクト・スタンダード」化されたといえるでしょう。

かつてのVHS対ベータ・マックスの時代と比べて、日本発の国際標準が影を潜めているのは否めません。

今や、電子機器の世界では水平分業が進み、一社だけの特許ではプロダクトを作ることができません。

このような世界で必然的に生まれてきたのがデファクト・スタンダードであり、従来のISOによる国際標準も活用しながら、その活用範囲を広げています。

AIに代表されるICTや通信技術がどんどん入り込んできている自動車業界が典型的です。

このようにデファクト・スタンダードを含む国際標準の世界はプレーヤーがどんどん増えて複雑になってきていますが、自社の特許等の知財を活用して、その波に遅れることなく、あるいは積極的に国際標準化していくことこそが、現在の日本に求められていることだと思います。

参考元:世代間規格競争とデファクト・スタンダード |早大システム科研 山田英夫


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