理想のルールメーカーとは?アフターコロナを勝ち抜く企業戦略を解説

新型コロナウイルスの感染拡大を機に、世界中のビジネスは大きな変革が求められています。世界各国で呼びかけられるロックダウンや外出自粛は人々の働き方やライフスタイ.0ルを大きく変化させました。ビジネスにおいても従来の事業形態では立ち行かなくなり、規模の大小を問わず多数の企業が倒産や経営危機に陥っています。

そのような状況において、withコロナ時代に適合したサービスを掲げて市場規模を拡大させている業界があります。たとえばフードデリバリーやケータリング、ECショッピングなどが最たる例といえます。

これらの業界はコロナウイルスの感染拡大以前から成長を続けてきました。そしてコロナ禍において情勢をいち早くキャッチアップしながら事業スタイルを柔軟に変革させることでさらに大きく飛躍したのです。

消費者の声にただ応えるのではなく新たな需要を創出して市場の基準を作り上げていくこれらのビジネススタイルは、将来的にアフターコロナの時代が訪れても失速することなくさらなる成長を遂げるでしょう。

こうした新たな流れを作り出す存在をルールメーカーと呼びます。この記事ではアフターコロナでビジネスチャンスを創出するルールメーカーの概要やメリットについて、事例を踏まえながら解説していきます。

当サイト監修者:日本知財標準事務所 所長 弁理士 齋藤 拓也 1990年株式会社CSK(現SCSK株式会社)に入社、金融・産業・科学技術計算システム開発に従事、2003年正林国際特許商標事務所に入所。17年間で250社以上のスタートアップ・中小企業の知財活用によるバリューアップ支援を経験。現在は、大企業の新規事業開発サポートや海外企業とのクロスボーダー 案件を含む特許ライセンス・売買等特許活用業務等に携わる。

グローバルビジネスを先導するルールメーカーとは?

ルールメーカーとは、その名の通りルールを作り出す存在を指します。「ルール」は直訳すると「規則」「決まり」ですが、ルールメーカーにおいては広義の意味で「サービス」や「製品」なども「ルール」に含まれます。

ルールメーカーの意義

ビジネス市場では国際機関や各国の政府によってさまざまなルールが定められています。際標準規格であるISOや、我が国の標準規格であるJISなどもそうしたルールの一つです。

標準化とは対象となる製品や技術の物差しであり、業界の物差しとして機能します。そうした標準化なども含むルールは内容次第で国や企業にとって有利にも不利にも作用します。

また、企業や政府から外国政府や国際機関に向けて働きかけることで、ルールを変えたり新たに作ったりすることもできます。グローバル化が推進される昨今においては、自社に有利なルールを構築・浸透させて新興国を取り込み、新市場の創出や拡大を図ることで発展していくことが重要なのです。

▶︎国際標準化ISOについては詳しくはこちら

ルールメーカーがもたらすメリット

ここでは自らがルールメーカーとなることで生み出されるメリットについて解説します。

売上の増加

自社の製品やサービスにおいて差別化できる特性を前面に出したルールを構築します。たとえば製品の性能や品質管理の基準など、他社と比較して自社が優れている点を基準にルールを策定します。そしてルールに則して自社の優位性をアピールすることで、認知度の向上と売上の増加へとつなげていけるのです。

乳酸菌飲料ヤクルトにおける事例

株式会社ヤクルト本社は、自社名を冠した飲料「ヤクルト」の一般的な清涼飲料とは異なる健康飲料としての特性に着目。この特性をもとに、全国発酵乳酸菌飲料協会を通じて乳酸菌飲料を発酵乳規格の新たなカテゴリとするよう、国際食品規格委員会コーデックスへ訴求。晴れて乳酸菌飲料が国際規格化され、健康食品としての位置づけを世界規模で築きあげるとともに認知度の向上と売上の増加を実現させました。

売上ダウンの回避

競合他社が不当な競争を仕掛けてきた際には対抗ルールを作って歯止めをかけるか、あるいは相手企業がのルール制定を食い止めることが、売上減少の回避につながります。

輸入DRAMにおける相殺関税の事例

エルピーダメモリ株式会社(現・合同会社マイクロンメモリジャパン)とマイクロンジャパン株式会社は、韓国企業がDRAMを政府の補助金によって日本へ不当に安く輸出しているとして日本政府へ相殺関税措置の発動を申請。日本政府は対象の製品に対して27.2%の相殺課税を賦課し、訴えを起こした二社は公正な競争条件のもとで売上の減少を避けることができました

コストの削減

製造コストへの影響が大きいとみられる要素をピックアップし、それらの基準が海外でも適用されるよう国際標準化などの手順を踏んでルールを形成します。ルール形成が成功すると、海外への輸出品であっても同一の規格で製造することができるためコストカットが実現します。

FTAにおける排ガス規制の事例

BMWやVWなどの欧州の自動車メーカーは、EU韓国自由貿易協定(FTA)において韓国への輸入車に対する製品規格の変更を実現。排ガス規制について例外規定を盛り込むことで欧州規格のままの製造が可能となり、製造コストの削減に成功しました。

コスト増の回避

たとえば競合他社が自社にとって不利なルールを構築しようとしているなら、対抗できる修正案を提案したり、異なるルールを作って申し立てを行なったりする必要があります。

自社にとって不利なルール形成を阻止できれば、新たな規格や規制に対応するために追加コストを費やすことなく製品やサービスを提供できるようになります。

ソニーによるICカードの事例

JR東日本がソニーFelica方式によるSuicaの導入を検討した際、通信企業モトローラがWTO政府調達協定違反として異議を申し立てました。しかしながら、この申請はモトローラのICカードの国際標準が成立前であることを理由に却下。加えてソニーのFelica方式を非接触ICカードとしてではなく汎用通信規格として国際標準化させることで対抗し、Felica方式が規格変更することなくSuicaへと正式に採用されたのです。ただし、本件は裏技的な策もあって何とかなったのですが、本来は日本から先に提案していればよりスムーズに国際標準化できていたものと考えられます。

ルールメーカーになり得るチャンス

ルールメーカーとなれるのは決して大企業だけではありません。あらゆる規模、あらゆる立ち位置の企業がルールメーカーになり得るチャンスを手にしています。

たとえば市場のシェアを大きく占めているパイオニア的な先発企業であれば、その座を奪われないための対策が必要です。競合企業がシェアを拡大させる前に、自社にとって優位なルールを形成するなど常に先手を打っておかなければなりません。

追随する後発の企業は、先発企業の業界での影響力が強いことから自社だけで事業拡大に有利なルールを形成することが難しい状況にあります。この場合、政府などにも働きかけながら自社が優位となるルールを形成していくことが望ましいでしょう。

また、リソースの限られた中堅ポジションの企業では自社だけでルール形成をすることが困難です。知財や法務関連の専門部署を設けていない企業も珍しくないため、まずは自社にとって脅威となる業界ルールを洗い出し、先発企業の動向を把握して戦略を練る必要があります。

▶︎事業拡大・発展に必須!知財戦略についてはこちら

実際にルール形成を進める段階では同業の大手企業や業界団体、政府などと連携してリソースを補うことが可能です。最後に先端技術を持ったグローバルニッチ企業では、自社の強みを活かした製品の普及拡大や新市場の創造を可能とするルールを作っていくことが大切です。

この場合、自社の製品や技術がいかに希少で優れているかをアピールし、提供価値の有効性を訴えながらルールを構築していくことが望ましいでしょう。

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いずれにしても、現代のルールメーキングでは、同業界で集まるのではなく、ユーザを巻き込むことが肝要です。バリューチェーンにおいて、自社製品・サービスをキーパーツとして組み込んだユーザとWin-Winの関係を築いてルールメーキングを行うことで、自社にとってライバルとなる同業者をユーザにコントロールしてもらうことも可能となります。

まとめ

技術や製造工程、品質管理など、自社の基準を自国や世界で標準化することは業界をリードするために大変重要な取り組みといえます。近い将来訪れるアフターコロナの時代では、時勢を読み解き柔軟に変化しながらニーズを作り出せるルールメーカーこそがビジネス成功の鍵を握っているのです。

参考元:企業戦略としてのルール形成に向けて|経済産業省/地域経済研究所|福井県立大学


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