標準化の専門家2人が対談!知らない損する?!今からでも間に合う標準化(前編)

「標準化って聞いたことはあるけどそんな簡単なものじゃないでしょ?」「標準化できること、できる人ってどんな人なの?」という標準化についてのリアルな現状を、今日はインタビューという形で日本知財標準事務所の齋藤さんと藤代さんにお聞きしていきます。

標準化は他人事?

ーこのサイトをご覧になっている方は標準化に少なからず興味をお持ちだと思うのですが、標準化を自分事としてとらえている方はそう多くはないと思います。標準化は国がやってくれること、という風に思われがちですが、実際のところはどうなんでしょうか?

齋藤

実はそうではない、なのでこのサイトがあるわけですけど(笑)。ただ、この背景には私自身も含めて、日本人全体にそういう傾向があるっていうのが前提にあるんです。

例えば、5月17日にソフトバンクの孫さんがホークスの試合について、緊急事態宣言の間は無観客にすると発表したんですね。まさにこういうのって、例外なんですよ。自らビジネスを展開している人って、国に決めてくれっていうスタイルが多いんです。

コロナウイルスに関する一連の施策からわかるように、自治体や政府の指示を仰ぐのが普通なんですよね。生活してる分には、僕らはこのような状況にあんまり違和感を抱かないですよね。だからたまに孫さんのように自分で決断できる人が出てくると、注目を集めるわけですよ。

このような状況になっている時点で、僕ら日本人が世界のスタンダードから外れているんです。現状をまず認識しないといけないので、このサイトで発信し続けることが目的の一つになっています。

僕ら日本人のDNAとして刻み込まれていると言ってもいいくらいの、物事を自分事として捉えない国民なんだということをまず認識しなければならないのかな、と自分では思っています。

ー藤代さんはいかがですか?

藤代

さっき齋藤さんが言ったように、ルールにも色々あります。皆さんもよく知っているような政府が決めるルールとそれ以外のルールです。実際私たちが生活する中で、政府が決めるルールは実は少なく、大半は当事者同士で決めています

ですが日本の場合、どうしてもそういった規制以外のルールも国が関与しているのが現状です。

例えば、昔日本政府が外国の政府と交渉した際、経済省が規制である法律を定めたと同時に、本来は任意であるスタンダードについても定めたんです。これに外国の政府はとても驚いたそうです。

彼らにとってみれば逆に新鮮だったらしいのですが、やっぱり自ずから守らなければいけないことと、その枠の中で活動するルールは全く別なので、その半分はよくわからないものだったそうです。

このことからも、大枠は政府が決めればいいけども、その先は実際の製品やサービスを一番よく知っている人が決めるべきということが分かります。

ーよく知っている人というのは、製品やサービスを作る人たちとそれを使う人たちということですね。

藤代

そうです。そういった人たちでどんどんルール作りを進めていけばいいんです。もう1つとしては、国はルールを決めることができますが、あくまでも一国の守備範囲はその一国でしかないということです。

当たり前の話ですが、外国のルールを決めることはできません。ですが、先ほど言ったようにスタンダードは作る人・使う人といった民間における関係者でルール作りをするため、国境というのがないんです。

30年、40年前とは違い、現代において国内だけで消費する製品ってほとんどないんですよね。であれば、最初から国際を前提としたルール作りが必要になってきます。これは政府ではできなくて、むしろ実際に企業活動してる人やその結果の産物である製品・サービスを使う人たちが作るのが義務といえます。

ただ、さっき齋藤さんが言ったように、そういったルールは天の声・神の声と思っている人たちが多いのです。やっぱりそういったルールを作ると同時に、作った責任が生まれます。

昔の国際社会では、今でもときどきアジア諸国にありますけど、出来上がったものだけを使う「技術のフリーライダー論」が当たり前の話だったんですけど、今は市場に参加する人は義務としてやらなきゃいけないことです。

ただそうは言ってはいきなりJISを作りますかと言うと皆さん大変なので。であれば我々がお役に立てれば、といった背景もあります。

ー国に任せっきりにしていると良いことがあるどころかかデメリットさえあるということですね。標準化はお上がやってくれるという認識は改めた方がいいですね。

藤代
自分の親があれこれ事細かく言い出したらどう思います(笑)?端的に言うと、お金は出すけど口を出すなということ。親は子供を養育する義務があるけど、それは子どもの人格に関与することではない、親と子は全く独立なので。それと同じ関係だと思いますよ。

標準化のチャンスは身近なところにある!

ーそれは分かりやすいたとえですね。しかし、標準化は国ではなく民間がどんどん進めていくのが理想なのかもしれませんが、先ほどのお話に出てきた孫さんのソフトバンクグループは巨大企業ですよね。

このお話を聞いた中小企業とかベンチャー企業のビジネスマンは、やっぱり標準化は自分たちには関係ないことだ、と思うかもしれません。大企業ではなくむしろ中小企業が標準化に成功した例は存在するんでしょうか?

藤代

例えば、皆さんが身につけているもの、日常を使ってるものを挙げるとしたら、眼鏡のフレームやタオルの事例があります。眼鏡のフレームは福井県の鯖江が国内において90パーセント以上の生産率を誇っていて、生産から輸出までを全て一貫して行っています。

そして鯖江にある眼鏡工業組合が、JISのみならず国際提案まで進出している状況です。これを聞くと大きな組織のように思えるかもしれませんが、実際の個々の眼鏡フレームを作る人は中小企業であって、大手の資本は一切入っていないんです。このように、一人じゃできないことも同じ目的を持った人たちが集まれば力を発揮できるんです

あとはタオルの事例です。今治タオルって聞いたことありますか?愛媛県の今治市という場所がタオルの圧倒的な生産率を誇っていて、こちらも鯖江の事例と同様にどんどんルールを作っていっている。これらの事例からも、やっぱり仲間づくりがものを言うことがわかります。

齋藤

あとは具体的な企業でいうと大成プラスさんの事例ですね。規模としては中小企業で、私たちのお客さんでもある方です。

大成プラスさんは金属と樹脂などといった全く組成の異なるものを接着剤を使わずに接合するという、世界最高峰の技術を持っていたんです。ですが、最初は信じてもらえないこともあり、やっぱり国際的に認められないと売れないんです。

大成プラスさんは発明家の方がずっとリードしている会社で、もともとは常に下請け企業だったんです。モノづくり日本を代表するような名だたる大企業さんも相談に訪れる、困った時の駆け込み寺として機能していた企業で、成富正徳さんという方がご活躍されていました。行き詰まったら成富さん来て!といった感じで(笑)業界ではすごく有名な人でしたね。

そういった人が「自社開発でこういう風に金属と樹脂がくっつきます、接着剤いりません」っていう。

「破壊試験すると接合面が外れないうちに樹脂の方が折れます」みたいな(笑)それぐらい強くくっつく技術だったんです。

これどうやったら世界で売れるかって考えたときに、もうこれは標準化しかないっておそらく気づいたんですね。既にこれはISO規格になっています。

国のサポートも活用しつつ、実際自分でジュネーブまで行って、国際会議に参加してご自身で交渉もして、といった風にご自身でリードして規格を制定まで引っ張ったんです。

ー国際会議に参加してご自身で交渉っていうのはすごい行動力ですね。

齋藤

さっきの質問の半分の答えにはなってないかもしれないですけど、頑張った人がいるんですよね。でも、自分たちもできるかどうかっていうのは正直言うと成富さんのリーダーシップって言うのはみんながみんな持ってるものではないと思います。

ただこういう事例から勇気を与えてもらえるわけですよ。だって、中小企業がたった一人でISOの規格制定やってのけたわけですからね。これは本当に金字塔なわけで、野球で言うと野茂英雄みたいな感じです。いいお手本が今目の前にあると考えていいと思います。

それを、僕らがある程度アシストしてあげることによって最高峰のテクノロジーを持つ一般の中小企業の皆さんとか、どうやったらシェアを取れるか、どうやったら世界で売って行くかっていうところで悩んでいる大企業の皆さんのサポートができるんじゃないかなというのが僕らがこの事務所をそもそも立ち上げた理由ですね。

NEXT▶︎▶︎
次回は標準化の最重要ポイントを詳しくお聞きしていきたいと思います。

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(左:藤代尚武 右:齋藤拓也)

プロフィール

齋藤拓也:日本知財標準事務所 所長 弁理士
日本知財標準事務所 所長 弁理士
1990年株式会社CSK(現SCSK株式会社)に入社、金融・産業・科学技術計算システム開発に従事、2003年正林国際特許商標事務所に入所。17年間で250社以上のスタートアップ・中小企業の知財活用によるバリューアップ支援を経験。現在は、大企業の新規事業開発サポートや海外企業とのクロスボーダー 案件を含む特許ライセンス・売買等特許活用業務等に携わる。


藤代尚武:日本知財標準事務所 知財標準化事業部長
1982年通商産業省(現経済産業省)入省。工業標準調査室長や国際標準課長などを務め、あらゆる産業分野の標準化、認証を担当。2019年正林国際特許商標事務所に入所。現在は、国際標準(ISO)、国家標準(JIS)、団体標準などのあらゆるタイプの規格化のサポートや、認証制度の活用業務等に携わる。