弁理士が教える!業界ガイドラインのルール・認証の作り方を徹底解説

「標準化」と聞くと、国際規格のISOや我が国の国家規格であるJISなどを思い浮かべる方が多いでしょう。しかしながら標準化というものは、必ずしもそうした公的標準だけを指すものではありません。

ISOやJISによる認証を得なくとも、業界内で独自の認証制度を作り、業界の指針を方向づけている「業界標準」も数多く存在するのです。この記事では、そうした業界団体における標準化ガイドラインの作り方について解説します。

当サイト監修者:日本知財標準事務所 所長 弁理士 齋藤 拓也 1990年株式会社CSK(現SCSK株式会社)に入社、金融・産業・科学技術計算システム開発に従事、2003年正林国際特許商標事務所に入所。17年間で250社以上のスタートアップ・中小企業の知財活用によるバリューアップ支援を経験。現在は、大企業の新規事業開発サポートや海外企業とのクロスボーダー 案件を含む特許ライセンス・売買等特許活用業務等に携わる。

業界ガイドラインも「標準」の一形態

標準化の目的は、製造方法・仕様・オペレーションなどを単一化・秩序化・量産化させることで、社会生活を効率化させるとともに、産業の発展を促進させていくことにあります。

利害関係者の合意を得て基準となる物差しを作ることで「標準」が定義され、それによって社会に新たな価値を伝えることもできます。

つまりISOやJISの認証がなくとも、業界内で浸透しているルールやガイドラインが存在するならば、それらは「業界の標準」であり「社会を変える手段」となり得るのです。

▶︎理想のルールメーカーとは!企業戦略についてはこちら

ガイドラインとは?

では、そもそもガイドラインとはどのようなものを指すのでしょうか。改めて考えてみると、マニュアルと混同してしまいそうになる方も多いでしょう。しかしながらマニュアルとガイドラインには違いがあります。

一般的に、マニュアルとは具体的な手順を詳細に指し示してくれる取扱説明書やレシピなどのこと。マニュアル通りの正確な手順で実行すれば、誰もが同じ結果を得られるようになっています。

一方、ガイドラインとは目指すべき指針や指標のことであり、ゴールに辿り着くまでの大まかな手順や重要なポイント、遵守すべき事項などが記載されているもののこと

1から10までその通りにすれば必ず同じ結果が得られるという類のものではありません。ガイドラインに記載されている事項を踏まえながら、その上でどのように行動すべきかを自ら判断することが求められます。

つまり業界のガイドラインを作ることは、各企業や個人の考えを尊重しながら、社会全体が良い方向に向かうための目指すべきゴールと重要なポイントを提示することなのです。

「標準」の種類

「標準」は、3つの種類に分類されます。

デジュール標準

まず最も影響力の大きなものがデジュール標準。ISOやJISなどのいわゆる公的標準であり、適用範囲はすべての製造および販売元となります。法的拘束力はありません。

策定や改正などの手続きは公的機関が中核となり、製造者や消費者など利害関係者のバランスに配慮しながら広く意見を求めるなど、公平性を重視して行なわれます。

▶︎国際標準化ISOについて詳しくはこちら

▶︎JIS規格のメリットを詳しく解説はこちら

フォーラム標準

次に挙げられるのがフォーラム標準。いわゆる業界標準であり、適用範囲はフォーラムの参加者に限定されます。法的拘束力はありません。

専門委員の意見を求めることもありますが、基本的にはフォーラム参加者が中心となって審議を進めます。策定や改正などはフォーラム内で自主的に決められます。たとえばDVDやBluetoothなどはフォーラム標準によって規格が定められています。

デファクト標準

最後にデファクト標準。こちらも業界標準の一つと言えますが、フォーラム標準との違いは自主的な取り決めによる標準ではないこと。たとえばパソコンにおけるWindowsやMac OSのように、個別企業の社内規格が市場の取捨選択によって事実上の標準となったものを指します。

業界ガイドラインの作り方

それでは業界ガイドラインを作成する際のポイントを確認していきましょう。

全体の構造

ガイドラインは主に

  1. ポリシー
  2. ガイドライン本文
  3. オペレーションガイド

3層の構造で作成することが望ましいとされています。

まず基本的な考え方や指針などを記載した「ポリシー」、次にポリシーを実現させるために遵守すべき事項などを記載した「ガイドライン本文」、最後にガイドラインに沿って具体的な行動に移す際の取り決めなどを記載した「オペレーションガイド」です。

オペレーションガイドは必ずしも全体に公開する必要はありません。ただし、実際にガイドラインを運用した上での留意事項などは随時更新することが重要です。

デジュール標準を目指す場合

フォーラム標準からスタートし、最終的にはISOやJISなどのデジュール標準を目指す場合のポイントを解説します。

構成メンバー

フォーラム標準は本来フォーラム参加者のみで策定が可能です。しかしながらデジュール標準を目指す場合には、ガイドラインを作成し始める段階から業界団体以外のメンバーを加えておくことが重要です。

たとえば、業界で中立に位置する人や実際に使用する人(製造者や消費者)などが該当します。また、経産省など関係省庁の関連部局も中立者のポジションに加えられることが望ましいでしょう。

文書形式

文書の形式も、あらかじめJISなど目標とするデジュール標準の形式に整えておくことが望ましいです。さらにISOなどの国際標準化を目指すならば、英訳も用意しておかなければなりません。

交渉

関係機関とあらかじめ協議しておくことでデジュール標準化をスムーズに実現させられる可能性が高まります。

関係機関にが、たとえばJISなどの国家規格ならば経産省や基準認証ユニット、ISOなどの国際規格ならば海外企業や提案協力国にある標準化組織などが該当します。

認証制度を運用する場合

ガイドラインの策定に留まらず、フォーラム内で認証制度を運用する場合に押さえておきたいポイントを解説します。

持続性のあるビジネスモデルの考案

認証機関を恒常的に持続させるにあたり、発生するコストと収益をあらかじめ計算しておく必要があります。

人件費などの固定支出はもちろんのこと、それを補いながら機関を運営するための収益をどのように得るのかについて事前に検討しなければなりません。

たとえば認証時に手数料などを徴収したり、認証マークの使用料を請求したり、といった方法が考えられます。

また、認証制度にかかる手間やコストと品質や信頼などのバランスが取れているかも重要です。認証レベルを設定して上位認証でブランディングを確立したり、下位認証で収益を獲得したりするなど、認証の目的や必要性を明確にしておきましょう。

運用ガイドの作成

認証を実施するにあたり、認証可否の判断レベルやガイドラインの必須項目などを確認するための運用ガイドを作成しておくことが望ましいです。

マークの作成および運用

認証マークを作成するとともに、商標権などの知的財産権の登録をしておきましょう。さらに認証マークを運用するためのガイドライン作成も必要です。

組織構成

さらに認証制度を運用するにあたって押さえておきたい組織構成におけるポイントを解説します。

ガイドラインと認証

ガイドラインを考案・作成・改正する組織と、ガイドラインに沿って認証を行なう組織は分離させましょう。

また、状況に応じてガイドラインの見直しは必要ですが、過度の改正は望ましくありません。一方、認証については判断可否の基準などを逐次見直していくことでより高い品質や信頼性を保つことができるでしょう。

認証とコンサルティング

認証を行う組織と、認証取得に向けてアドバイスなどを行う組織は分離させましょう。たとえば運転免許の試験場とドライビングスクールなどがわかりやすい例です。

認証が広まっていくことで、いずれはコンサルティングを行なう組織のほうがより高い収益を得られるようになります。

第三者委員会の設立

ガイドラインや認証基準の作成、組織運用などに対し、有識者で構成された第三者委員会を設けましょう。また、認証マークの利用者や消費者、メディアなどを交えた懇談会を開くことも今後の運用において有益な声を拾える可能性が高まります。

事例

転用:https://kidsdesign.jp/business/certification

フォーラム標準のガイドラインと認証制度を運用し、のちにデジュール標準を実現させた事例を紹介します。

キッズデザイン・CSD認証

キッズデザイン・CSD認証とは、キッズを対象とした製品・環境・サービスにおいて定められたガイドラインおよび認証制度。従来の安全基準を遵守しただけではカバーしきれない乳幼児の事故に対して、実際の事例や類似案件、ヒヤリハット情報などをもとに策定・運用されています。

キッズデザインのガイドラインがフォーラム標準化されたのは2012年。ガイドライン作成の段階からISO規格を参考にした制度設計を行ない、JIS認証として国内標準化(デジュール標準化)を実現させています。

その背景ではガイドライン委員会と認証委員会を別個に構成し、独自に作成した認証マークの付与および運用ガイドの策定を実施。

また、別組織におけるキッズデザイン賞での収益などをもとに継続的な運用を可能とするなど、デジュール標準化と組織の持続性の確立を目指した運用が行なわれてきました。

まとめ

ガイドラインや認証制度は、策定・普及させることで人々の社会生活を大きく変化させられる可能性を持っています。

実用性や持続性などを鑑みながら、規模や目的に応じた適切な階層での運用を行なうと共に、より広い領域での運用を可能とすべく今後もさまざまな企業や団体が標準化への取り組みを加速させていくことでしょう。


    必須会社名

    必須氏名

     

    必須メールアドレス

    必須電話番号

    必須問い合わせ内容

    任意メッセージ本文