日本規格協会規格(旧JSA-S)とは?世界初!従業員満足規格を産み出した

標準規格で有名なものといえば、国際規格であるISO(International Organization for Standardization)、国家規格であるJIS(Japanese Industrial Standards)などを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。

世界には、このほかにも地域規格や団体規格、社内規格など、その適用範囲や制定機関によって、さまざまな規格が存在します。

そのなかでも注目したいのが「日本規格協会規格(旧JSA-S)」。一般財団法人日本規格協会によって、2017年8月から始動した民間規格です。

当サイト監修者:日本知財標準事務所 所長 弁理士 齋藤 拓也 1990年株式会社CSK(現SCSK株式会社)に入社、金融・産業・科学技術計算システム開発に従事、2003年正林国際特許商標事務所に入所。17年間で250社以上のスタートアップ・中小企業の知財活用によるバリューアップ支援を経験。現在は、大企業の新規事業開発サポートや海外企業とのクロスボーダー 案件を含む特許ライセンス・売買等特許活用業務等に携わる。

「日本規格協会規格(旧JSA-S)」の成り立ち

「日本規格協会規格(旧JSA-S)」が誕生した背景には、多角的な規格開発を望む企業などの団体から寄せられた声があったといいます。なぜならば、規格化を実現させるには長い時間を要するという課題があったのです。

たとえば、国際規格のISO。ビジネスパーソンには聞き馴染みがあり、国際的に通用する標準規格としてはネームバリューとしても最高峰といえるでしょう。

しかし、ISO規格を制定するには最短でも3~5年ほどの年月を要します。規格の新規作成はもちろん、既存規格の改定の際にも100カ国を超える国々の合意を得なければならず、その手続きにもたいへん手間がかかるのです

これは国家規格であるJISも同様であり、近年ではJIS法の改正によりフローの短縮・簡略化が進んでいますが、それでも最短でも2〜3年ほどの年月がかかるというのが実情です。

もちろん、大規模な法務部などの専属部署を設けている大企業やそれに準ずる団体であれば、時間とお金をかけて取り組むことができるでしょう。

その一方で、よりスピーディーに規格が制定できて、質の高いシステムを多くの人々に広めることができれば理想的ではないかという思いも否めません。

そこで、こうした声に応えるべく日本規格協会によってつくりだされたのが「日本規格協会規格(旧JSA-S)」です。

日本規格協会は戦後間もない1945年12月の設立以来、国内外の標準規格の普及と開発に取り組んできました。民間企業や研究機関、教育機関などとの連携が深く、標準規格の認証事業をはじめ、民間企業などに対して規格における川上から川下まで幅広く支援を行なっています。

「日本規格協会規格(旧JSA-S)」は、企業と近い距離で人々の声をダイレクトに拾える日本規格協会ならではの民間規格といえるでしょう。

「日本規格協会規格(旧JSA-S)」第一号は従業員満足規格!

JSA-S

2019年3月、半導体製造メーカーである株式会社ディスコ(東京都大田区)はJSA-S1001『ヒューマンリソースマネジメント−従業員満足−組織における行動規範のための指針』を発行しました。この規格は日本規格協会の「JSA-S」第一号であり、世界で初めて従業員満足に特化した規格として注目を集めています。

規格発行のきっかけ

従業員満足規格を発行するきっかけとなったできごとは、仕入れ先による品質管理ミスだったといいます。あるとき、ディスコ社が取引先から納入された製品に欠陥が見つかり、大きな市場トラブルへと発展したそうです。

原因を探ると、それまで取引先で活躍していたベテランの担当者が退職し、引き継ぎが不十分であったことがわかりました。

多くの企業では、こうしたトラブルが発生した際に取引先へ再発防止を求めることでしょう。改善策の文書化を要求したり、契約内容の改訂をしたり、取引先に対してなんらかの誠意を示してほしいと考える企業も少なくないと考えられます。

加えて、自社でも同様のミスを引き起こさないよう注意喚起やマニュアルの見直しを行なうという企業も多いでしょう。

しかし、ディスコ社は一般的な企業とは少々異なる着眼点を持っていました。社長の関家氏は当該トラブルにおいて、取引先企業における従業員満足度の低さが根本的な要因であると考えたのです。

同氏の考えは、「そもそも従業員満足度が高ければ人は辞めない」というものであり、「人が辞めない理想的な環境であれば、このようなトラブルは起こらない」というものでした。

実際に、ディスコ社は従業員満足度が非常に高いとして定評のある企業です。2017年には、厚生労働省より『働きやすく生産性の高い企業・職場表彰』において最優秀賞を授与されています。

そこでディスコ社は従業員満足に関する取り組みを文書化し、取引先に対して展開するプロジェクトを立ち上げました。

自社の取り組みを他社に共有するには、どの企業でも適用できる内容へとブラッシュアップさせる必要があります。どんなに優れた取り組みであっても、それがディスコ社でしか通用しないものであれば意味がないからです。

こうした背景から、ディスコ社は取り組み内容をISOやJISなどの規格形態で示すことを考えました。規格として発行すれば、取り組みの客観性や透明性、公平性を確保できるとともに、汎用性の高い内容にすることができるのではないかという思いがあったためです。

そこでディスコ社は従業員満足に関する取り組みを文書化し、取引先に対して展開するプロジェクトを立ち上げました。

自社の取り組みを他社に共有するには、どの企業でも適用できる内容へとブラッシュアップさせる必要があります。どんなに優れた取り組みであっても、それがディスコ社でしか通用しないものであれば意味がないからです。

こうした背景から、ディスコ社は取り組み内容をISOやJISなどの規格形態で示すことを考えました。規格として発行すれば、取り組みの客観性や透明性、公平性を確保できるとともに、汎用性の高い内容にすることができるのではないかという思いがあったためです。

▶︎国際標準化ISOについて詳しくはこちら

▶︎JIS規格のメリットを詳しく解説はこちら

なぜ「日本規格協会規格(旧JSA-S)」を選んだのか?

ディスコ社が自社の取り組みを「日本規格協会規格(旧JSA-S)」によって規格化した背景には、『1.「日本規格協会規格(旧JSA-S)」の成り立ち』において解説した課題が見えてきます。

具体的には、ISOの制定には、原案の提出後に100を超える国々の合意を得なければならず手続きに手間がかかること、発行までに長い年月を要することです。さらに、当時は世界的に従業員満足に特化した規格は存在しませんでした。

前例のない取り組みを規格化するには、高く険しい壁が立ち塞がっている状態です。率直に言って、実現するかもわからない、実現できても莫大なリソースを割くことが目に見えていると断言していい状況でしょう。担当者はこの問題に頭を悩ませたといいます。

しかし、ディスコ社から規格化の相談を受けた日本規格協会は一つの提案をします。それは、協会が始動させたばかりの新たな民間規格「日本規格協会規格(旧JSA-S)」の制度を適用してみないかというものでした。

ディスコ社の取引先に向けたプロジェクトの発足が2017年11月であり、「日本規格協会規格(旧JSA-S)」は同年8月に誕生したばかり。ちょうど時を同じくしてスタートラインに立っていたといえます。

日本規格協会規格(旧JSA-S)」のメリットは、規格化に関わるメンバー構成がシンプルであること、規格発行までの期間が迅速であることです。これを踏まえ、ディスコ社は「日本規格協会規格(旧JSA-S)」制度への申し込みを行ないました。

規格発行までの道のり

しかし、誕生したばかりの民間規格である「日本規格協会規格(旧JSA-S)」と、世界的に前例のない従業員満足規格。この二つの要素が絡み合った当該規格を発行するには一筋縄ではいかない問題がありました。

標準規格を体系別に分けると、その頂点に座するのが国際規格であるISO。その下に国家規格であるJISなどがあり、さらにその下層に業界規格と連なり、最下層に位置するのが民間規格となります。

これは、下位にあたる規格が基本的に上位にあたる規格を基に作成されるという考え方があるためです。

当時、従業員満足に特化した規格は存在しませんでした。それでも今後上位に同じ領域の規格が発行された際、ディスコ社の規格が上位の規格に影響してはならないという見解が第三者委員会から示されたのです。そして、規格ではなく事例を紹介する形に留めてはどうかという意見があがったのだといいます。

これに対して日本規格協会はさまざまな前例を調査し、規格化を実現できる方法をディスコ社へ提案しました。それは規格の名称と適用範囲を工夫することです。

具体的には、ディスコ社の規格が上位の規格を基に作成されているという関係性をつくりだすために、規格の名称に「ヒューマンリソースマネジメント」という仮の規格名を追加すること。

そして、この規格が今後新たに開発される類似の規格を妨げるものではないことを適用範囲に一文として含めることです。

こうした工夫と努力を重ね、2019年3月、ディスコ社はJSA-S1001『ヒューマンリソースマネジメント−従業員満足−組織における行動規範のための指針』の発行を成し遂げました。

「日本規格協会規格(旧JSA-S)」制度に申し込んでから規格発行までにかかった期間はおよそ一年弱だったそうで、従来のISOやJISよりもスピーディーに規格化を実現させられることが明確になった事例といえます。

このように、これまで長年の間JIS規格の制定に関わってきた日本規格協会のノウハウを生かし、民間企業の社内規格に基づいた民間規格ができたことは非常に意義深いものです。

くしくも、同規格の制定日である2019年3月25日は、同年7月1日のJIS法の大改正により、サービスマネジメントシステム等がJISのカテゴリとして拡大される直前に当たります。

自発的な改善活動など、日本企業が誇るべきマネジメントシステムは他にも多くあり、この日本規格協会規格(旧JSA-S)が元となり、将来ISO化する可能性も残されています。

欧米に対して遅れているといわれているこうした分野において、日本企業の品質を保証するツールとして、再び世界市場で日本企業が高く評価されるために、日本規格協会規格(旧JSA-S)が果たす役割は大きなものがあるといえるでしょう。

▶︎業界のガイドラインのルール・認証の作り方はこちら

まとめ

ディスコ社と日本規格協会が手に手を取り合い実現させた世界初の従業員満足規格。この事例を皮切りに、日本規格協会では「日本規格協会規格(旧JSA-S)」ならではのさまざまな規格が発行されています。

質の高い取り組みを幅広い領域へ落とし込む手段として、「日本規格協会規格(旧JSA-S)」は今後もより重要性を増していくことでしょう。


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