統一性・多様性を生かす2つの技術標準化を弁理士が解説

たとえば、日々の生活で使用している乾電池。あるいは、車の運転に欠かせない道路標識。こうした、私たちの生活に密接しているものの多くは、国内あるいは国際的に「標準化」がなされています。

「標準化」とは、一定のルールのもとに規格や仕様を定め、互換性を確保すること。また、それにより多くの人々が電化製品などを安全に利用できるようにすること、そして産業の発展を促進させていくことが目的とされています。

それでは、具体的な事例を交えながら、「標準化」についてわかりやすく解説していきます。

標準化とは?

乾電池は単一から始まり、単二、単三……と、数字が大きくなるほど乾電池自体のサイズが比例して小さくなっていきます。しかし、本体のサイズに、メーカーごとの違いはありません。

たとえば、いままで使用していたパナソニックの単一電池が切れてしまい、パナソニック製電池のかわりに百円ショップのプライベートブランドの単一電池を購入したとします。

このとき、メーカーは異なりますが、サイズが合わなかったり、電池を入れた電化製品が動かなかったりすることはありませんよね。それは、乾電池の形状が国内で「標準化」されているからです

どのメーカーの乾電池を購入しても不良品ではない限り正常に作動することから、「メーカーにこだわりはないので、いつもお店で一番安いものを買っている」という方も多いでしょう。

しかし、仮に乾電池がメーカーごとに異なるサイズを打ち出していたとしたら、その前提は崩れてしまいます。

たとえば、「パナソニックの電気スタンドの単一電池が切れてしまった。誤って三菱電機の単一電池を買ってしまい、サイズが合わない。お店で返品・交換の対応をしてもらわなければ……」なんてことも日常茶飯事になってしまいます。

そんなことになれば、消費者は特定のメーカーでしか電化製品を購入しなくなるかもしれません。

また、家電メーカー側も、「せっかく高性能な製品を開発したのに、大手メーカーのように乾電池が市場に出回っていないせいで、なかなか販売数が伸びない」という課題に悩まされることもあるでしょう。

最悪のケースでは、そうしたハードルを壊すために、大手メーカーの乾電池との互換性のある乾電池を開発し、特許権の侵害でメーカー側から訴えられてしまう可能性だってあるのです。

つまり、日本国内で乾電池の仕様や規格が統一されているからこそ、多くの企業が次々に新たな製品を開発し、私たち消費者も性能や価格・デザインなど、さまざまな観点から取捨選択をできるのだといえるでしょう。

統一性と多様性

「標準化」は、大きく二種類に分けて考えることができます。まずは、「統一性を生かす標準化」、そして「多様性を生かす標準化」です。

先述の電池の例で考えてみましょう。いわゆる一次電池に分類される乾電池は、大きさや形が国内で統一されています。

どこのメーカーの製品を使用しても互換性があり、「単一はこんな形で、大きさはこれぐらい……」とすぐに思い浮かべることができるでしょう。これは、統一することによるメリットがメーカーと消費者間の双方で大きいためです。

では、電池は電池でもボタン電池などはどうでしょうか?

実は、ボタン電池などの二次電池は、形状が統一化されていません。1.5ボルト、3ボルトなど、そのボタン電池に備わっている性能さえ確保できていれば、形状は問われないのです。そのため、製品に適した多様性のあるデザインをつくることができます。

このように、「乾電池は標準化させて、ボタン電池は標準化させない」とすることで多様性を生み出せる電池は、「多様性を生かす標準化」に成功しているといえるでしょう。

畳の標準化

現状は「統一性を生かす標準化」でありながら、「多様性を生かす標準化」へと舵を切ることで成長が見込めると考えられるのが畳です。

畳は、その形状だけでなく、重さや藁床のつくり方など、製作過程までもが日本の国家規格(JIS)で定められています。つまり、日本で使用されることしか考えられていないのです。

しかし、海外に住みながら日本の文化を愛している人々は世界中に大勢います。しかし、日本であれば、一畳、二畳……と畳の枚数分が部屋の広さの基準となりますが、海外ではそうもいきません。

畳をつくる根幹の技術はとても重要ですが、形状を自由にすることができれば、海外でより販売数を伸ばせる可能性が高くなるでしょう。そして、そうすることが日本文化をより国際的な文化へと昇華させることに繋がると考えられます。

一から十まですべての基準を標準化させるのではなく、根幹を見極めながら市場に合わせて多様に変化をさせていく。それによって、より市場が成長していくのではないでしょうか。

特許やノウハウを活用した標準化ビジネスの成功例

Tokkyo bijinesu

あるベンチャー企業は、「接着剤をつかわずに金属と樹脂を接着する技術」を持っていました。その技術は、他社には真似のできない高度な技術であるがために、かえって技術の高さを客観的に評価することができずにいました。

そこで協力を仰いだのが、産業技術総合研究所(つくばセンター)です。

その企業は、接着させる独自のノウハウの一部を公開して特許出願し、自社で編み出した「剥がれない強度の試験方法」をわずか3年で国際標準化させました。

すなわち、社内に秘匿するノウハウ(クローズ)と、公開して特許化するノウハウ(オープン)とを組み合わせてその性能試験方法を国際標準化したのです。

試験方法が国際標準化されると、国内はもちろん海外にもアピールしやすくなります。結果的に、「国際標準化された試験方法により、剥がれない強度とそれを裏付ける技術力の高さを示す」ことが客観的にできるようになりました。

さらに、その高い技術を利用するために結果として特許や秘匿されたノウハウが必要となる、というビジネスを成立させたのです。

最終的に、この国際標準化が大手自動車メーカーからの信頼を後押しする形となり、販路の拡大に繋がっていったといいます。

この企業が成功した決め手は、特許と標準化をうまく組み合わせたことにあります。確かに、「接着剤をつかわずに金属と樹脂を接着する技術」は素晴らしいものであり、ノウハウは唯一無二です。

しかし、企業としてビジネスをうまく展開することができた理由は、試験方法を国際標準化させることで強度をアピールしながらも、接合方法を秘匿化しつつ、接着方法を、「接着剤を使わない」という幅広い条件としたことによって、日本企業だけではなく、多様な接合方法を有する多くの企業が利用することができ、かつ、ISOに基づいた試験を行った結果、日本企業が有利になったことが大きな要因といえます。

つまり、標準化そのもので利益を得るのではなく、標準化をフックに特許や秘匿したノウハウで利益を得たということになります。

まとめ

技術を標準化させることは、独自の技術を他者にばら撒き自社の利益を損なうだけのものではありません。

「標準化」とは、すべてをオープンにし、すべてを統一するものだけではないのです。上記の例のように、オープンとクローズを使い分けて、クローズ部分を残したままオープン部分を国際化標準化することもできるのです。

もちろん、方法を間違えれば、得られたはずの利益が無駄になってしまうケースもあるでしょう。

しかし、根幹の部分は統一させて多様性を生かせる部分を残したり、「標準化」の枠組みをうまく活用して特許で利益を得たり。

「標準化」とは、こうした戦略次第で、自社のビジネスをどんどん発展させていくことができるシステムなのです。