みなさんは「BSI」のことをご存じでしょうか?BSIとは世界で最も古いとされる規格協会。100年以上の歴史を持った格式のある組織です。今回はその設立から最近の動向まで、その成り立ちと取り組み事例を解説します。これを読めばBSIについての理解が深まること間違いなしです。

英国規格協会 (BSI) とは
英国規格協会 (British Standards Institution) はイギリスの国家規格 (British Standard 略:BS) を制定するためにつくられた標準化機関です。その前身となる組織の誕生は1世紀以上前に遡ります。
BSIの歴史
1901年、BSIの母体である工学標準化委員会 (Engineering Standards Committee) が発足されました。委員会設立の背景には、標準化がいかに重要であるかを説いた人物の存在が大きく関わっています。その人物とは、ロンドンのタワーブリッジや地下鉄を設計したジョン・ウルフ・バリー (1836年-1918年没)。彼の提唱を機に、鉄鋼分野において規格が定められていったのです。
第1次世界大戦中にはさっそくそれらの規格がイギリス軍や各省庁、さらには世界各地の植民地政府において使用されるようになります。それに伴い、工学標準委員会は1918年に英国工学標準協会 (British Engineering Standards Association) へと発展しました。
活動の重要性が認められ、英国王室による勅許(Royal Charter)を得たのが1929年のこと。この王室認可の取得を機に英国規格協会 (BSI) へと団体名を改めたのが1931年、そして現在に至ります。発足当初は鉄鋼に特化していた委員会が、国家規格を制定する王室認可の巨大機関へと成長を遂げるまでにかかった期間はわずか30年余りでした。
BSIの理念
国際規格を取り決めるにあたり、BSIでは3つの事柄を目標に掲げています
(参考:ISOホームページ https://www.iso.org/member/2064.html)
こうした理念を確立させることにより、BSIはイギリス企業が国際的に飛躍できるよう競争力の向上を手助けしています。
ちなみに3つ目に挙げられているライセンスマークとは、Kitemark®(カイトマーク)のこと。BSIによって認証され、安全性が保証された製品に付与されます。凧 (kite) のような形をしているためこのように呼ばれています。
画像参照:https://www.bsigroup.com/ja-JP/our-services/mark-of-trust/
製品の安全性を消費者に示すことを目的としており、設立直後の1903年からその原型となるマークが使用されています。第2次世界大戦以降は消費者運動の高まりとともにより広く認知されるようになりました。1959年には車のシートベルトとオートバイのヘルメットにこのマークをつけることがイギリス政府によって義務付けられています。
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主な規格
BSIによって制定された規格のことをBS規格といいます。工学標準化委員会(BSIの前身団体)では鉄鋼製品の標準化を図ることが主な目的でしたが、現在ではそれ以外にも幅広い分野でサービスを提供しています。
BSIの得意分野は組織の目標達成をサポートするマネジメントシステムです。顧客の要求を満たす製品・サービスを提供するシステムを管理する「品質マネジメントシステム (BS 5750)」や、事業者や団体などが設定した環境保全にかかわる目標や方針を実現させるための仕組みである「環境マネジメントシステム (BS 7750)」が代表的です。
BSIの影響力
BSIは現在、世界において強大な影響力を持つ標準化機関のひとつとして数えられています。イギリス国内だけにとどまることなく、世界規模で標準化へと積極的に携わっています。
ISOとの関係
国際標準化機構 (ISO)は工業規格の国際標準化を目指すための非政府組織です。第2次世界大戦後のため活動を停止していた万国規格統一教会 (ISA) を受け継ぐ機関として1947年に設立されました。
BSIは発足当初からISOに正会員として所属し、総会での議決権を行使しています。総会においてBSIは大きな影響力を持っており、これまでISO規格として採用されたBS規格は枚挙にいとまがありません。先ほどあげた5つの規格もISO規格の原案として採用されています。
ヨーロッパにおけるBNI
欧州標準化委員会 (CEN)はさまざまな技術領域において欧州規格(EN規格)を定めており、欧州電気標準化委員会 (CENELEC)は電気工学分野に特化した標準規格を定めています。それぞれの委員会を構成しているのはヨーロッパ各国の標準化団体です。両団体における主要メンバーとして密に関わっているのがBSIであり、その活動に貢献しています。
イギリスは2020年1月にEUを離脱しましたが、BSIは引き続きCEN、CENELECの両委員会にとどまるとされています。標準化という定義がもはや一つの国家の中だけで完結させられるものではないことを表す出来事であるといえるでしょう。
BSIの展開
標準化の制定・浸透に取り組むだけでなく、BSIは多方面のサービス事業でグローバル化を加速させています。1998年にはこれまでの国内における活動から世界進出へと舵を切ったBSI。
名称を「BSIグループ」に改め、アメリカやシンガポールを拠点とした認証機関の買収を行いました。現在は標準化意外にも製品認証、システム評価、トレーニングなどの事業を193カ国で展開しています。BSIにおける近年の動向を確認してみましょう。
小口保冷配送サービス
ヤマト運輸株式会社と沖縄ヤマト運輸株式会社は小口保冷配送サービスに関するISO規格 (ISO 23412) を2020年5月28日に取得しました。認証を行ったのは1999年に設立された「BSIグループジャパン」。BSIグループの日本法人です。
小口保冷配送サービスとは食料品や生鮮品など保冷が必要な商品を一般家庭向けに届ける事業のことで、日本国内のみならずアジア諸国でもその需要が高まっています。ヤマト運輸株式会社などはこの業界をリードすべく、各国の企業に先駆けて荷物の扱い方や保冷技術等に関する自社のさまざまな知見を標準化しました。
ISO規格の承認に先駆け、BSIグループはヤマト運輸株式会社など6社に対して国際規格「PAS1018」の認証を実施しました。PAS (Publicly Available Specification) とはBSIグループジャパンがISOなどの国際ルールに準じて独自に定めた公開仕様書のことです。
BSIはこれまでもISOなどに対してPASを原案とした規格を提案しており、国際規格として実際に策定された例もあります。今回の事例でも、事前にPAS規格を得ていたことがISOの認証を取得するにあたり有益な方向へと働いたといえるでしょう。
コロナ時代のBSI
2020年、世界は新型コロナウイルス感染症の猛威に見舞われました。日本でも4月に緊急事態宣言が発令され、多くの企業で在宅勤務が導入されるなど働き方も大きく変化しました。
パンデミックの収束が見通せない状況にありながら、BSIは職場における感染症対策を規定したガイドラインをいち早く発表しました。それが「COVID-19パンデミック時の安全な働き方-組織のための一般的指針 (Safe working during the COVID-19 pandemic – General guidelines for organizations ) 」です。
5月の初版公開を機に、BSIでは各方面からガイドラインに対するコメントを募りました。こうして改良を重ね、8月には早くも第3版を刊行しています。
このガイドラインではあらゆる組織に適応できる「安全な働き方」の基準を定めています。その内容はオフィスでの衛生管理から、リモートワークの活用方法、さらには安全対策の評価・改善のプロセスまで多岐にわたります。
加えて、このような非常時であっても、BSIは今回発表した指針を国際規格にするために着々と歩みを進めています。PASやISOにおいてガイドラインの規格化を提唱し、2020年内の成立を目指しています。決まりを作ったらそこでおしまいではなく、国際標準化を最終到達地点として常に見据えているのです。
まとめ:衰えることを知らないBSIの存在感
20世紀初頭に産声をあげたBSIは、現在もなお大きな存在感を放っています。事業の形を時代に沿って柔軟に変えながらも標準化に注力し続け、イギリス企業の国際競争力や英国規格の世界的シェアが飛躍するよう強力にバックアップしています。
また標準化戦略においてBSIの取り組みはモデルケースとなっています。標準化を行うにあたって戦略的に行動することで、国際規格の認証を取得することも決して夢ではないのです。
JIPSでは豊富な専門知識をもとに、お客様にもっともふさわしい標準化の方法をBS規格を含めたさまざまな選択肢の中からご提案させていただきます。